大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所八王子支部 昭和57年(少ハ)1号 決定 1982年2月20日

少年 G・S(昭三八・一〇・一三生)

主文

当裁判所昭和五六年少第一七九一二号道路交通法違反保護事件につき、当裁判所が少年に対し、昭和五六年一〇月一四日なした、少年を中等少年院に送致する旨の決定を取消す。

右保護事件につき少年を保護処分に付さない。

理由

一  原事件の審判等

少年に対する当裁判所昭和五六年少第一七九一二号道路交通法違反保護事件につき、当裁判所は少年に対し、昭和五六年一〇月一四日、少年を中等少年院に送致する旨の決定(以下原決定という)をなし、少年は現在静岡少年院に在院中である。(以上の点は原事件記録により明らかである)

二  原決定の理由(非行事実)

少年は、暴走族グループ「○○」のリーダーであるところ、暴走族グループ「○△」のリーダーA外約三〇名と共謀して、著しく道路における交通の危険を生じさせ、かつ、著しく他人に迷惑を及ぼすことを知りながら、いわゆる自動車による集団暴走行為を企て、昭和五六年七月一二日午前二時頃から同日午前三時八分頃までの間、東京都狛江市○○×丁目××番××号先から東京都世田谷区○○×丁目××番先の通称○○通り○○陸橋に至る道路において、自らが運転する自動二輪車約一五台の車両を連ねて通行させ、又は併進させ、この間同日午前三時六分頃、同区○○×丁目××番×号先の右○○通りを○○方面から○○方面に向けて進行中、その前方を同一方向に進行する、右グループとは無関係のB(当時五〇年)運転の普通乗用自動車外一台に対し、その周囲に接近して左右から取り囲んで巻き込むようにして追い越したり、その直前に進入する等して、その付近で同車両二台に停止を余儀なくさせ、もつて、共同して著しく道路における交通の危険を生じさせ、かつ、著しく他人に迷惑を及ぼす行為をしたものである。(以下本件非行事実という)。(以上の点は原事件記録により明らかである)

三  当裁判所の判断

(1)  本件非行事実に副う証拠として、原事件記録中、少年の司法警察員に対する昭和五六年九月四日付、同月一一日付、同月一五日付、検察官に対する同月九日付、同月一八日付各供述調書、Aの司法警察員に対する同月一日付、同月五日付、同月一三日付、検察官に対する同月九日付、同月一四日付各供述調書、C、D、E(謄本)、F(謄本)、G(謄本)、H(謄本)の司法警察員に対する各供述調書、D、G、E、F、Hの検察官に対する各供述調書謄本、司法警察員作成の昭和五六年九月一一日付実況見分調書等があり、それらにはいずれも、少年が本件非行事実に関与している趣旨の記載がある。

(2)  しかしながら、右(1)の各証拠はいずれも、同証拠と、当裁判所が職権をもつて取調べた、東京家庭裁判所昭和五六年少第七〇〇二八一号G、同第七〇〇二八四号L、同七〇〇二八六号Jに対する各道路交通法違反保護事件の各決定書、横浜地方検察庁昭和五六年検交第三七七七三号Kに対する不起訴決定書、J、L、E、少年の弁護士に対する各供述調書、証人J、同D、同M、同N、同Aの各供述、少年の陳述とを対比すると、にわかに信用することができないから、本件非行事実を肯認すべき証拠となし難い。

(3)  却つて右(2)の当裁判所が職権をもつて取調べた各証拠及び少年の陳述を総合すると、本件非行事実の共犯者であるとされている者のうち四名については、いずれも東京家庭裁判所において、いわゆるアリバイ等が証明され、本件非行事実に関与していないものとして、非行事実が存しないことを理由に少年法二三条二項所定の不処分決定がなされ、うち一名は横浜地方検察庁において、いわゆるアリバイが証明され、本件非行事実に関与していないものとして、犯罪事実についての嫌疑のないことを理由に不起訴処分がなされたこと、少年は、本件非行事実発生当時の前後、月余にわたり、定職に就かず、保護者の許に居住せず、友人のアパート等に居住して、放恣、怠惰の生活を送つていたが、本件非行事実発生時も友人数名と共に、東京都調布市内所在の、友人Oが居住するアパート内に居て外出しなかつたこと、右(1)の少年の各供述調書の供述内容は、いずれも本件非行事実の存在を認める趣旨のものであるが、それはそのように供述することにより、自己の受ける処分が軽減化されるのではないかとの安易な考えに依拠したものであること等の事実が認められる。

右事実に依拠すると結局少年については、右二の本件非行事実につき、これを犯したことを認めるに足る証拠がないことに帰着する。

四  結論

以上によると原決定は、原事件において少年に対する審判権がなかつたのになされたことに帰するから、少年法二七条の二、一項により原決定を取消し、かつ、原事件においては少年を保護処分に付することができない場合に該当するから、同法二三条二項により右事件につき少年を保護処分に付さないこととする。よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤俊光)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例